最近、登山ショップの店頭で新しいタグを見かけたり、店員さんから「環境に優しい新素材です」と説明されたりして、気になっている方も多いのではないでしょうか。
特に、これまで絶対的な信頼を置いていた防水素材が変わると聞くと、実際の性能はどうなの?とか、今までのウェアと何が違うの?といった疑問が湧いてきますよね。筆者も新しい素材が登場すると聞いて、最初は「これまでの良さが失われていないかな」と少し身構えてしまいました。
そこで今回は、ゴアテックスのePEメンブレンとは一体どんなものなのか、その正体やメリット、そして気になるデメリットまで、筆者が調べたり実際に触れたりして感じたことを分かりやすくお伝えしようと思います。この記事を読めば、これからのウェア選びで迷うことがなくなりますよ。
この記事でわかること
①新素材ePEメンブレンと従来の素材との違い
②着用して感じる軽量さとしなやかさのメリット
③PFASフリー化に伴うメンテナンスの重要性
④パタゴニアやアークテリクスなど主要ブランドの動向
ゴアテックスのePEメンブレンとは?進化した特徴
まずは、この新しい素材がこれまでのものとどう違うのか、その基本的な特徴について見ていきましょう。一言で言うと、環境への優しさと使い心地の良さを両立させた、次世代のスタンダードと言える素材なんですよ。
✅従来のePTFE素材との決定的な違い
✅軽量化としなやかな質感というメリット
✅パタゴニアやアークテリクス製品での評判
従来のePTFE素材との決定的な違い

これまで半世紀近く、ゴアテックスの心臓部として君臨してきたのは、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)というフッ素樹脂の膜でした。これが2022年頃から順次、ePE(延伸ポリエチレン)という全く新しい素材へと歴史的な転換を遂げています。
最大の違いは、化学的な構造そのものが「非フッ素」であることです。従来の素材は極めて安定した性能を持っていましたが、製造過程などで使われる特定のフッ素化合物(PFAS)が環境に残留しやすいという課題がありました。
これに対し、ePEはポリエチレンという汎用性の高いポリマーを特殊技術で延伸させたもので、「PFASフリー」を実現しながら高い防水透湿性を維持しているのが最大の特徴です。
10年以上の歳月をかけた技術革新
この変化は単なる素材の置き換えではありません。日本ゴア社を含むゴア社が10年以上の研究を重ねて生み出した、ゴアテックス史上最大級の技術革新と言われています。
ポリエチレンは本来、日常生活のポリ袋などで馴染みのある素材ですが、これを数百万もの微細な孔を持つ多孔質構造に仕上げることで、水滴を通さず水蒸気だけを逃がす「魔法の膜」としての機能を持たせることに成功しました。これにより、カーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の削減にも大きく貢献しています。

ePTFEとePEのスペック比較
| 比較項目 | 従来のePTFE | 次世代ePE |
|---|---|---|
| 主素材 | 延伸ポリテトラフルオロエチレン | 延伸ポリエチレン |
| 環境特性 | PFAS関連規制の影響あり | PFASフリー・低炭素排出 |
| メンブレンの厚み | 標準的 | 従来の約半分(大幅な軽量化) |
| 防水性能 | 28,000mm以上 | 28,000mm以上(同等の基準) |
| 構造 | PU等との二成分構造 | PU等との二成分構造 |
実際に手に取ってみると分かりますが、膜そのものが非常に薄くなっているのにもかかわらず、ゴアテックスの厳しい防水基準をしっかりクリアしている点には、筆者も驚かされました。環境への配慮という企業の姿勢が、最先端のテクノロジーとして結実しているのを感じますね。
(参照元:ePEメンブレンを採用した次世代GORE‑TEX プロダクト)
軽量化としなやかな質感というメリット
実際にウェアとして仕上がったとき、私たちが最も恩恵を感じるのが「圧倒的な軽量化」と「しなやかな着心地」です。ePEメンブレンは、従来のePTFEに比べて厚みが約半分に抑えられています。
これにより、ジャケット全体の重量が劇的に軽くなりました。例えば、パタゴニアの定番「トリオレット・ジャケット」では、ePEを採用することで耐久性を維持したまま約40gもの軽量化に成功しています。

登山のパッキングにおいて「1グラムの軽量化」が安全や疲労軽減に直結することを考えると、この進化は非常に大きいかなと思います。
運動性能を格上げする「しなやかさ」
また、従来のゴアテックスウェアに対して「ゴワゴワして硬い」「動くたびにバリバリ音がする」というイメージを持っていた方も多いのではないでしょうか。ePEは素材自体が非常に柔らかいため、完成したプロダクトの風合いが驚くほどソフトです。
腕を上げたり体を捻ったりする動作の際も、生地がスムーズに追従してくれるため、テクニカルな登攀やバックカントリースキーでのストレスが激減しています。「まるでソフトシェルのような着心地のハードシェル」と言っても大げさではないかもしれません。
収納性と多用途への適応

生地が薄くしなやかになったことで、ザックの中での収まりも良くなりました。コンパクトに畳めるため、夏山のレインウェアとしても非常に優秀です。
また、これまでの「いかにも登山服」というパリッとした質感が抑えられたことで、タウンユースのライフスタイルウェアとしても違和感なく着こなせるようになっています。登山だけでなく、普段の雨の日にも積極的に使いたくなるような、日常に寄り添う快適さが手に入ったのは筆者としても嬉しい発見でした。
パタゴニアやアークテリクス製品での評判

このePEメンブレンは、すでに世界中のトップブランドで採用され、厳しいフィールドテストをクリアしています。特に、環境保護に力を入れるパタゴニア(Patagonia)は、全社的にこの素材への移行を加速させています。
「スーパー・フリー・アルパイン・ジャケット」などは、ePEの軽さと最新のC-KNITバッカー技術を組み合わせることで、極限の環境でも動きやすく、かつ蒸れにくいという高い評価を得ています。実際に愛用しているガイドの方々からも、「軽さが武器になる」というリアルな声が届いているようですね。
アークテリクスが示す「PRO ePE」の信頼性
さらに注目すべきは、2025年モデルから登場したアークテリクス(Arc’teryx)の「GORE-TEX PRO」搭載モデルです。これまでは「ePEは軽量モデル用」というイメージもありましたが、最も堅牢なPROシリーズに採用されたことで、その評価は決定的なものになりました。
例えば新型の「Beta AR」は、ePEを採用することでメンブレンを軽量化し、その分を表生地の厚み(デニール数)を上げるリソースに充てるという設計思想で作られています。つまり、全体の重量は変えずに、岩場での擦れに対する「耐久性」をさらに向上させているんです。
これこそが、機能美を追求するアークテリクスらしい進化の形だなと感じます。
↑↑これ、筆者お薦めの最適解。急な天候の変化やさまざまなアウトドアシーンに対応する、軽量で柔らかなePEメンブレンを採用したGORE-TEX PRODUCTS 3層構造のシェルジャケットとパンツ。
また、最近ではウェアだけでなく、フットウェアやグローブといったアクセサリー類にもePEの採用が広がっています。リサイクル繊維の断熱材と組み合わせたグローブなど、プロダクト全体で環境負荷を下げる取り組みが加速しています。
これらのブランドが積極的に採用しているという事実は、ePEが単なる「代替品」ではなく、「最高峰のパフォーマンスを発揮できる素材」であることの証明と言えるでしょう。
ゴアテックスのePEメンブレンとは?選び方とケア
機能性が向上した一方で、素材の特性が変われば、ユーザー側に求められる「付き合い方」も少し変わってきます。ここからは、購入前に知っておくべき現実的なポイントを掘り下げていきますね。
✅非フッ素素材のデメリットと油汚れへの対策
✅性能を維持する正しい洗濯とメンテナンス
✅ゴアテックスのePEメンブレンとは未来の標準
✅まとめ:ゴアテックスのePEメンブレンとは?
非フッ素素材のデメリットと油汚れへの対策

さて、ここが一番重要なポイントかもしれません。ePEメンブレンそのものは完璧な防水性を持っていますが、その性能を支える表面の「撥水加工(DWR)」に少し変化があります。従来のフッ素系撥水剤は、水だけでなく油も強力に弾く「撥油性」を持っていました。
しかし、環境配慮型の「非フッ素(PFASフリー)DWR」は、水はしっかり弾くものの、油分に対しては従来よりも弱くなっているという特性があります。
油汚れが引き起こす「ウェットアウト」の恐怖
日常生活や山行中に付着する皮脂、日焼け止め、ファンデーション、あるいは調理の際に出る煙に含まれる油分などが生地に付着すると、そこが「水を吸うスポット」になってしまいます。これが「ウェットアウト」と呼ばれる現象で、表生地が水を含んで重くなり、透湿性が遮断されてしまいます。
その結果、内側の汗が結露して「雨が漏れてきた!」と勘違いしてしまうほどの不快感を生むことがあるんです。メンブレン自体は浸水を防いでいても、表面が濡れるとゴアテックスの真価は発揮されません。
ePE製品の注意点まとめ
- 油汚れ(皮脂・化粧品・排ガス等)が従来の素材より付着しやすい。
- 汚れを放置すると、撥水性能が著しく低下し、生地の「剥離(はくり)」の原因になる。
- 従来のフッ素系製品よりも、物理的にシミになりやすい傾向がある。
これを防ぐためには、とにかく「汚れたらすぐに洗う」という意識が不可欠です。以前のような「たまに洗う」という感覚ではなく、「道具のコンディションを整えるためにルーチンで洗う」というマインドセットの切り替えが、ePEを使いこなす上での最初のステップになるかなと思います。
性能を維持する正しい洗濯とメンテナンス
筆者がこれまで多くの登山者を見てきて感じるのは、「高価なウェアだからこそ洗うのが怖い」という誤解が根強いことです。しかし、ePEメンブレンにおいて、洗濯は性能維持の生命線です。
皮脂や汗は、生地とメンブレンを繋いでいる接着層を劣化させ、生地が水ぶくれのように浮き上がる「剥離」を招きます。こうなると修理は不可能。だからこそ、「一度着たら、たとえ短時間でも洗う」のが理想的です。

失敗しない洗濯の黄金手順
まずはすべてのジッパーやベルクロを閉じます。洗剤は、洗剤成分が残りにくい「液体の中性洗剤」を選んでください。
粉末洗剤や柔軟剤は、メンブレンの微細な孔を塞いだり撥水を阻害したりするので絶対NGです。ぬるま湯(40℃以下)で優しく洗い、何よりも重要なのが「すすぎ」です。
洗剤が残っているとそれが水を呼び寄せてしまうため、通常の倍くらい丁寧に進めてください。脱水は洗濯機を傷める可能性があるため、タオルで水分を吸い取るか、ごく短時間に留めましょう。

(参照元:アウターウェアお手入れ方法 | GORE-TEX ブランド)
熱処理が撥水性を蘇らせる
乾燥した後の仕上げとして、「熱を加えること」が非フッ素DWRには不可欠です。乾燥機で20分ほど回すのがベストですが、ない場合は「低温(あて布必須)」でアイロンをかけてください。この熱によって、乱れた撥水分子が再び綺麗に整列し、水弾きが見事に復活します。
ただし、ePE(ポリエチレン)はePTFE(フッ素樹脂)よりも熱に弱いという性質があるため、高温にしすぎないよう注意が必要です。このあたりの細かな温度設定は、必ず各製品の洗濯表示を確認してくださいね。
ポジティブな進化は未来の標準なのか?
ここまで詳しく見てきましたが、結局のところ、ゴアテックスのePEメンブレンとは、私たちがこれからも豊かな自然の中で遊び続けるために避けては通れない、そして歓迎すべき「ポジティブな進化」なのだと筆者は確信しています。
2025年後半には、消費者向けのゴアテックス製品のほとんどがこの素材へ切り替わると言われています。つまり、これからは「ePEであること」が当たり前の世界になるわけですね。
責任あるパフォーマンスを身に纏う
私たちがこの素材を選ぶことは、単に機能性の恩恵を受けるだけでなく、地球環境への負荷を減らそうとする大きな流れに参加することでもあります。ゴア社が掲げる「Responsible Performance(責任あるパフォーマンス)」という言葉通り、高い防護性能と倫理的な製造プロセスが一つになったのがePEメンブレンです。
最初はケアの手間に戸惑うかもしれませんが、自分の手でメンテナンスをして機能を回復させるプロセスは、道具への深い理解と愛着に繋がるはずです。
もし今、新しいレインウェアやハードシェルの購入を迷っているなら、ぜひ店頭でその「軽さ」と「柔らかさ」を体感してみてください。そして、「これは洗うことで長く付き合える、新しい時代の道具なんだ」という確信を持って選んでほしいなと思います。

まとめ:ゴアテックスのePEメンブレンとは?
この記事で解説した重要なポイントをリストにまとめました。
- ゴアテックスの心臓部が従来のePTFEからePEへ転換した
- 新素材のePEはフッ素を含まないPFASフリーを実現している
- 製造過程における二酸化炭素の排出量を削減し環境に配慮している
- メンブレンの厚みが従来の約半分になり大幅な軽量化に成功した
- 素材自体が非常に柔らかくしなやかな着心地を提供している
- 動いた際の衣擦れ音が抑えられソフトな質感になっている
- 防水性は従来と同等の高い水準をしっかり維持している
- パタゴニアやアークテリクスなどの主要ブランドが採用を進めている
- 最上位のプロカテゴリーにも導入され過酷な環境に対応している
- 非フッ素の撥水加工は皮脂や日焼け止めなどの油汚れに弱い性質がある
- 汚れを放置すると撥水性が低下し生地が剥離する原因になる
- 機能を保つために着用後はこまめに洗濯することが推奨されている
- 洗剤が残らないようにすすぎを徹底することが重要である
- 乾燥機やアイロンによる熱処理で撥水性能を回復させることができる
- 熱に弱いため高温でのアイロンがけを避ける必要がある
正確な最新スペックやお手入れの詳細については、各メーカーの公式サイトも併せてチェックしてみてください。皆さんが新しい相棒と共に、より安全で快適な山行を楽しまれることを、筆者も心から応援しています!



