最近、ジムに行くと独特なカラーリングのシューズを履いている人をよく見かけませんか。そう、スカルパのベローチェです。インドアでのトレーニング用に使っていた方が、その快適さと性能のバランスには本当に驚かれていました。
「柔らかい靴は初心者向け」という古い常識を覆し、中級者~上級者のトレーニングシューズとしても絶大な支持を得ています。でも、いざ購入しようとすると、スカルパのベローチェのサイズ感はどうなのか、ベルクロとレースモデルの違いはどこにあるのか、といった疑問が湧いてきますよね。
また、柔らかいソールゆえに耐久性やリソールのタイミング、ネット上の評判も気になるところです。今回は、レディースモデルの選び方も含めて、このシューズの魅力を余すところなくお伝えしていきたいと思います。
この記事でわかること
①ベローチェの特徴とレース・ベルクロモデルの違い
②S-72ラバーの耐久性とリソールに出すべき目安
③サイズ選びのコツと他モデルとの比較
④インドアクライミングにおける実際の使用感
スカルパのベローチェ:特徴とレビュー

まずは、このシューズがなぜこれほどまでに現代のクライマー、特にインドア派の人たちに支持されているのか、その基本スペックと実際の使用感から深掘りしていきましょう。
独自開発のラバーや、快適性を生み出す構造など、スカルパの技術が詰まっています。特に現代のボルダリングジム特有の「ボリュウム(ハリボテ)」への対応力は、他の追随を許さないレベルに仕上がっています。
✅レースとベルクロモデルの違い
✅レディースモデルの特徴と選び方
✅耐久性の評価とリソールの目安
✅インドアでの性能に関する評判
レースとベルクロモデルの違い

ベローチェには、最初に発売されたベルクロモデル(Veloce)と、後から追加されたレースアップモデル(Veloce Lace)が存在します。
「ただ留め具が違うだけでしょ?デザインの好みで選べばいいのでは?」と思われがちですが、実は構造や乗り味にも明確な違いがあります。ここを理解せずに選ぶと、「思ったより緩かった」「意外と面倒だった」というミスマッチが起きてしまいます。
私自身が履き比べて感じた大きな違いは、フィット感の調整幅と、土踏まずからヒールにかけての剛性感です。ベルクロモデルはスリッパに近い構造で、ミッドソール(Flexan 1.0)がつま先周辺をサポートしていますが、全体的なねじれ剛性は低めです。
対してレースモデルは、紐による締め上げ効果と構造的な強化により、若干ですが「シャンとした」履き心地になっています。
| 特徴 | ベルクロモデル(Veloce) | レースモデル(Veloce Lace) |
|---|---|---|
| 着脱のしやすさ | ◎ ワンアクションで非常に楽。ジムでの利便性は最強。 | △ 紐を結ぶ手間があるが、休憩中も緩めやすい。 |
| フィット調整 | ◯ ジグザグの1本締め。大まかなホールド感。 | ◎ オフセット配置の紐で、甲高・幅広など足型に合わせて微調整可能。 |
| 剛性とサポート | 非常に柔らかい(スリッパ感覚)。自由度が高い。 | ややしっかりしている。掻き込み時のサポート感が向上。 |
| ヒール性能 | ◯ 平均的。PAFシステムで圧力は分散される。 | ◎ 紐で足首周りをロックできるため、強負荷でもズレにくい。 |
| トウフック | ◎ ラバー面積が広く、ストラップの干渉が少ない。 | ◯ 紐が斜め(オフセット)配置なので、フック面は確保されている。 |
ベルクロモデルはとにかく着脱が楽で、全体的にソフトな履き心地が特徴です。ジムで課題をガンガン登って、休憩中はすぐに脱ぎたいという人、あるいは足裏感覚を最優先したい人には最高です。
一方、レースモデルは紐で締め上げることができる分、ヒールフック時の安定感が増しており、強傾斜での掻き込み動作においても足が靴の中で回転しにくい印象を受けます。本気でグレード更新を狙うならレース、トレーニングの快適さと手軽さを取るならベルクロ、という選び方が賢い選択かなと思います。
※筆者のレベルだと、完全にベロクロ派です。
レディースモデルの特徴と選び方

「Veloce WMN(ウィメンズ)」は、カタログ上では女性用としてラインナップされていますが、実は単に女性向けというだけでなく、ローボリューム(LV)モデルとしての重要な役割を持っています。これは、足のボリュームが少ない男性クライマーにとっても非常に有力な選択肢となります。
クライミングシューズにおいて「メンズ=標準」「ウィメンズ=細身」という区分けは一般的ですが、ベローチェの場合、その違いがフィット感に大きく影響します。具体的には、WMNモデルはメンズモデルと比較して、ヒールカップがより小さく細く設計されており、甲の高さ(インステップ)も抑えられています。
WMNモデルを検討すべき人
- 足の実寸は合っているのに、メンズモデルだとかかとが余って浮いてしまう人
- くるぶしの位置が低く、シューズの履き口が当たって痛みを感じる人
- 足全体の幅が細く、ベルクロを限界まで締めても中で足が遊んでしまう人
私のアドバイスとしては、性別にとらわれず両方を試着することをおすすめします。「男だからメンズモデル」と決めつけてしまうと、シンデレラフィットのチャンスを逃すかもしれません。

カラーリングもメンズ(黒×黄色系)と異なり、青緑系の爽やかなデザインです。実際、ジムで見渡すと、足幅が細い男性上級者がWMNモデルを履いている光景は全く珍しくありません。
耐久性の評価とリソールの目安

ベローチェの最大の特徴であり、同時に購入前に必ず理解しておくべき懸念点が、アウトソールに使用されている「S-72」ラバーの特性と耐久性です。このラバーはスカルパが独自開発したもので、Vibram社のXS Grip2よりもさらに柔らかく設定されています。

正直に言いますね。このラバー、減りはかなり早いです。
S-72は、指で押すとむにゅっと容易に凹むほど柔らかく、驚異的な粘り気(フリクション)を持っています。そのおかげで、ツルツルのボリュウムや滑りやすいホールドにも吸盤のように張り付いてくれるのですが、その代償として物理的な摩耗スピードは速めです。
特に、まだ足置きが定まっておらず、壁を擦るように登ってしまう初心者の場合、数ヶ月、早ければ3ヶ月程度でつま先のゴムがなくなってしまうこともあります。
リソールのタイミングに注意!
つま先のラバーが薄くなり、下地(ランドラバー)がうっすら見え始めたら、即座に使用を中止してリソールに出してください。ランドラバーまで削れて穴が開いてしまうと、修理費用が高額になるか、最悪の場合は修理不可となってしまいます。
また、リソール時に純正の「S-72」ラバーを取り扱っているショップは限られています。純正の柔らかさにこだわる場合は、スカルパ認定のリソールショップに依頼する必要があります。
一方で、ポジティブに捉えれば「ラバーが減る=それだけ壁との摩擦を得て登らせてくれている」という証拠でもあります。また、リソールの際に敢えて少し硬めの「Vibram XS Grip2」などを指定し、アッパーの快適性を維持しつつエッジング性能を強化する「ハイブリッド・ベローチェ」にカスタムする上級者も多く存在します。

インドアでの性能に関する評判

実際にジムで使っているユーザーの評判を見ても、「インドアなら最強」「もう他の靴に戻れない」という声が多いですね。知人もインドア専用として愛用していますが、その評価には完全に同意すると語っていました。
特に得意なのは、現代的なジムに多い巨大なボリュウム(ハリボテ)へのスメアリングです。従来の硬いシューズ(例えばインスティンクトVSのXS Edgeモデルなど)だと、ホールドの曲面に追従できずに「パチン」と弾かれてしまうような場面でも、ベローチェなら足裏全体でベタっと踏めるので、接地面積が広く確保できます。
「滑るかも」という恐怖心が減るだけで、動きが大胆になれるのは大きなメリットですよね。
また、独自の「FKJ」ラスト(木型)とスクエア気味のトウボックスにより、足指が自然に広がるため、ボリュウムを掴むような感覚が得られます。さらに、アッパーが柔らかいため、トウフックの際も足の指を反らせてホールドを挟み込む動作が容易です。
一方で、明確な弱点もあります。それは外岩にあるような数ミリ単位の極小エッジ(結晶など)への立ち込みです。ソールが柔らかすぎて体重を支えきれずに変形してしまい、足裏の筋力を過度に消耗します。
結果、ふくらはぎがすぐにパンプしてしまいます。外岩メインの方や、細かいジブス(ビス止めホールド)が多い課題には不向きです。あくまで「インドアクライミング特化型」として割り切って使うのが正解でしょう。
(出典:SCARPA Veloce 製品情報 – 株式会社ロストアロー)
スカルパのベローチェ:サイズ感ガイド

シューズ選びで最も悩ましいのがサイズ感です。特にスカルパはモデルによってラスト(木型)が全く違うので、単純に「いつものスカルパのサイズ」で選ぶと失敗することがあります。ベローチェ特有の「伸び」と「用途」を考慮したサイズ選びのコツを詳しく解説します。
✅サイズ選びは実寸と伸びを考慮
✅ドラゴなど人気モデルとの比較
✅初心者にもおすすめできる理由
✅スカルパのベローチェ:総括
サイズ選びは実寸と伸びを考慮
ベローチェのアッパー素材には、天然皮革ではなくマイクロファイバー(合成皮革)が採用されています。一般的にマイクロファイバーは天然皮革ほど伸びないと言われていますが、ベローチェに関しては構造が非常に柔らかいため、使用しているうちに内装が足に馴染み、体感サイズはハーフサイズ(0.5cm)ほど大きくなります。
また、柔らかいシューズなので、攻めすぎないサイズ選びが重要です。
リュウセイのおすすめサイズ感
- 快適重視(初心者〜中級者のジム履き):
素足の実寸と同じ、もしくは実寸 -0.5cm(EUサイズ換算)。指が軽く曲がる程度で、激痛がない状態を目指します。 - パフォーマンス重視(上級者のトレーニング):
実寸 -1.0cm 〜 -1.5cm 程度。隙間を完全に排除し、DTSテンションシステムを最大限に活かすフィッティングです。
これ以上小さく攻めると、ベローチェの長所である「快適性」が失われてしまいますし、ソールが柔らかいので指が曲がりすぎて力が入りにくくなります。
さらに重要なのが、長く履いているとラバーの弾力が落ちて、全体的に「ヘタる(剛性が落ちる)」ことです。新品の時はピタッとしていても、1年ほど履くとかなり緩く感じるようになるという報告が多数あります。
特にベルクロモデルはストラップでの締め付け調整に限界があるため、初期段階では「少しキツイかな?」と思うくらいのジャストサイズ(隙間なし)を選んでおくことが、長期的な使用においては重要になります。(※これ、結構ポイントです。筆者)
ドラゴなど人気モデルとの比較
同じスカルパのハイエンドモデルと比較すると、ベローチェの立ち位置やサイズ感のイメージがより明確になります。特に人気の高い「ドラゴ」や「インスティンクト」との違いを見てみましょう。
| モデル | 比較ポイント | サイズ感の傾向 |
|---|---|---|
| Drago(ドラゴ) | ドラゴは攻撃的でターンインがきつい。ベローチェはより自然な足型でストレートに近い。 | ドラゴと同じサイズで履くと、ベローチェの方がかなり楽(リラックス)に感じる。ハーフサイズ下げても履けることが多い。 |
| Instinct VS/VSR | インスティンクトは剛性が高く、アッパーも硬め。ベローチェは圧倒的に柔らかくフレキシブル。 | 同じサイズ表記でも、ベローチェの方が圧迫感が少なく快適。インスティンクトと同じサイズを選ぶと、ベローチェは緩く感じることがある。 |
ドラゴを履いていて「性能は大好きだけど、長時間履いていると痛くてつらい」と感じている人が、普段のジム練習用にベローチェを選ぶケースが非常に多いです。
🔶↓↓画像はドラゴ



「ドラゴの快適版」や「練習用ドラゴ」というイメージを持つと分かりやすいかもしれません。コンペ本番はドラゴ、普段のセッションはベローチェ、という使い分けは非常に賢い運用方法です。
🔶↓↓画像はインスティンクト



初心者にもおすすめできる理由

「初心者にはフラットでソールが硬い靴がいい」と昔はよく言われましたが、現代のジム事情を考えると、私はベローチェこそ初心者の方に強くおすすめしたい一足だと考えています。
その最大の理由は、「痛くないから登ることに集中できる」という点に尽きます。
クライミングシューズ特有の痛みは、初心者にとって最大のハードルです。ベローチェはトウボックス(つま先部分)が広めに作られており、指の関節(DIP/PIP関節)を極端に折り曲げる「クリンプ」状態を強要しません。痛みに耐えながら登るのは苦行ですし、クライミング自体が嫌になってしまいますよね。
また、足裏の感覚が分かりやすい(センシティビティが高い)ので、「ここに足を置くと滑る」「こう置くと止まる」という情報のフィードバックが得やすいのも大きなメリットです。硬い靴だと何に乗っているか分からないまま登ってしまいがちですが、ベローチェなら足指でホールドを掴む感覚を養うことができます。
これは、将来的に上達するために不可欠な「足置き(フットワーク)」の技術習得を早めてくれるでしょう。ただし、前述の通りラバーの減りは早いので、「足音を立てずに丁寧に足を置く(サイレントフィート)」練習を常に意識することが大切です。
スカルパのベローチェ:総括
結論として、スカルパのベローチェは現代のインドアボルダリングジムにおいて、最も合理的で快適な選択肢の一つだと断言できます。
強傾斜のボリュウム課題から、スラブのベタ踏みまで、ジムにある課題の8割以上はこの靴で快適にこなせるはずです。
もちろん、外岩の微細なエッジングや鋭利なジブスには向きませんが、ジムでのトレーニング用、あるいは「2足目は何を買えばいいか迷っている」「痛くないメインシューズを探している」というクライマーにとって、これ以上の相棒はいません。
「快適なら登れない(痛くなければ性能が低い)」という昔ながらの常識を覆してくれるのがベローチェです。ぜひ一度足を入れて、その「靴下のような」新感覚を体験してみてください。きっと、痛みから解放されて、もっと長く、もっと楽しく登れるようになりますよ。
























