クライミングシューズ市場において、唯一無二の存在感を放つスポルティバの「ノーエッジ」シリーズに、待望の新作が登場しましたね。これまでフューチュラやジーニアスを使ってきたけれど、もう少しこうだったらいいのにと感じていた方や、食わず嫌いでノーエッジを敬遠していた方にとって、このマンダラはまさに求めていた答えかもしれません。
この記事では、実際にこのシューズがどのような特徴を持っているのか、カタログスペックだけでは分からない履き心地やサイズ感、そして実際の壁での挙動について詳しく掘り下げていきます。
この記事でわかること
①独自のサイズ感と足馴染みの変化
②ノーエッジ特有の剛性と足裏感覚のバランス
③他モデルや競合製品との具体的な違い
④耐久性やリソールに関する運用面
スポルティバのマンダラをレビュー：サイズ感と履き心地！
まずは、マンダラというシューズの基本骨格となる「サイズ感」や「構造」について、徹底的に解剖していきましょう。スペック表を見るだけでは伝わらない、足を入れた瞬間の感覚や、使い込む過程での変化について詳しくお伝えします。
✅独自のサイズ感と足入れを徹底分析
✅剛性と足裏感覚のバランスを評価
✅進化したヒールカップの性能とは
✅ノーエッジの寿命とリソール情報
独自のサイズ感と足入れを徹底分析
クライミングシューズ選びで最も頭を悩ませるのがサイズ感ですよね。マンダラのアッパー素材には、ポリエステルやナイロンをベースとした「マイクロファイバー（合成皮革）」が採用されています。一般的にマイクロファイバーは天然皮革に比べて「伸びにくい」と言われていますが、マンダラに関しては少し事情が異なります。
新品時の拘束感と馴染み後の変化
マンダラは裏地のない「アンラインド」仕様であるため、実際に履き込んでいくと、ハーフサイズ（約0.5cm）ほど伸びて足に馴染むという明確な特徴があります。
新品時はアッパーのハリが強く、かなりタイトに感じるかもしれませんが、数回ジムで登り込むうちに、自分の足型に合わせて適度に緩和されていきます。この「初期の硬さ」に騙されて大きめを選んでしまうと、後々緩くなってしまう可能性が高いので注意が必要です。
ソリューション系との比較
同じスポルティバの「ソリューションコンプ」を愛用している仲間によると、マンダラも基本的には同じサイズ感（私の場合はEU37前後）を選んで問題ないようです。ただし、マンダラの方がラスト（木型）の設計上、土踏まずから甲にかけての拘束力が強く感じられます。
これは「PD 85」という攻撃的なラストを採用しているためで、足全体をギュッと包み込むような一体感は、ソリューション以上にダイレクトです。
もし、クライミングシューズのサイズ選びに迷っているなら、基本的には「実寸から攻めたサイズ」を選ぶのがこのシューズのポテンシャルを引き出す鍵になりますが、痛みに弱い方はハーフサイズ上げても、強力なベルクロがカバーしてくれる安心感があります。
サイズ選びのポイント
ソリューションやスクワマと同じサイズを基準にするのがおすすめですが、新品時の圧迫感は強めです。「伸びる」ことを前提に、最初は我慢できるギリギリのタイトさを選ぶのが正解かなと思います。
剛性と足裏感覚のバランスを評価
「ノーエッジ＝フニャフニャで柔らかい」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか？確かにマントラなどは非常に柔らかいですが、マンダラに関してはそのイメージを良い意味で裏切る、絶妙な剛性感を持っています。
3mmソールとP3システムの恩恵
アウトソールには3mm厚の「Vibram XS Grip 2」が採用されています。数値だけ見ると薄く感じますが、実際に壁に立ってみると、意外なほどの「しっかり感」を感じます。これは、スポルティバの代名詞とも言える「P3システム（Permanent Power Platform）」という形状維持の仕組みと、1.1mmのLaspoFlexミッドソールがしっかりと仕事をしているおかげですね。
サポート力と感度のスイートスポット
フューチュラだと柔らかすぎて、垂壁での立ち込みで足指が疲れてしまうような場面でも、マンダラなら適度なサポート力で耐えられます。体重を預けた瞬間に「グニャッ」と潰れすぎず、かといってエッジシューズのように弾かれることもない。
この「足裏からの情報は拾うけれど、入力は逃さない」というバランスこそが、マンダラの最大の魅力だと感じました。インドアのボテ（ボリューム）へのスメアリングから、外岩の細かい結晶踏みまで、一足でこなせる汎用性の高さはここから来ています。
進化したヒールカップの性能とは
これまでのノーエッジシリーズ、特に初期のフューチュラやマントラを使用していたクライマーの間で、密かに、しかし確実に囁かれていた悩みがありました。
それは「ヒールが浅くて脱げそうになる」「強烈な負荷がかかると横ズレが気になる」という点です。どれだけつま先の感覚が良くても、ヒールフック一発でシューズが脱げそうになっては、本気トライで使うのを躊躇してしまいますよね。
しかし、安心してください。マンダラでは、このヒールカップの性能が劇的に、そして明確に改善されています。「ノーエッジはヒールが甘い」という定説は、このモデルで過去のものになったと言っても過言ではありません。
日本人にも合うナローヒールパターン
まず特筆すべきは、ヒールカップ全体の形状が刷新されたことです。具体的には「ナローヒールパターン」という、従来よりも明らかに細身でシェイプされた形状が採用されています。欧米人に比べて踵の骨が小さく、平坦になりがちな私たち日本人の足型でも、踵の隙間（デッドスペース）が生まれにくい設計になっています。
実際に足を入れてみると、踵の奥まで「スポッ」と収まる感覚ではなく、シューズ全体が踵の骨を左右から「ギュッ」と挟み込んでロックしてくるような、頼もしい拘束感を感じられるはずです。この密着度の高さこそが、マンダラが「攻められるシューズ」である大きな理由の一つです。
サイドプルタブとランドラバーによる剛性強化
形状だけでなく、構造的な剛性アップも見逃せません。ヒールの両サイドに配置されたプルタブ（履く時に指を引っ掛ける輪っか）にご注目ください。実はこれ、単なる着脱補助パーツではないんです。
このプルタブから伸びるランドラバーが、ヒールカップの側面を補強する骨格のような役割を果たしており、ヒール全体の剛性を底上げしています。これにより、ルーフ課題で全体重を踵に預けるようなハードなヒールフックをかけても、カップが「グニャッ」と潰れたり、シューズの中で足が回転してズレたりする不安がほとんどありません。
感覚としては、ガチガチの成型カップを持つ「ソリューション」と、柔軟な「スクワマ」の中間にあるような、「柔軟なのに芯がある」絶妙なバランスです。この安心感は、最近のコンペティションモデルであるソリューションコンプに近いレベルまで引き上げられていると感じます。
実戦でのフック性能と感度
岩場やジムでの実戦において、このヒールは非常に実用的です。マンダラのヒールは余計なパーツが少なくシンプルなので、岩の形状をダイレクトに感じ取ることができます。「あ、今ここに乗ってるな」という情報が足裏を通じて伝わってくるため、見えない位置にあるホールドへのヒールフックでも、迷いなく力を込められます。
また、ヒール上部までしっかりとグリップ力の高いラバーで覆われているため、マントルを返す際や、スローパーに対する浅いヒールフックでも、ヌルっと抜けることなくしっかりと食いついてくれます。
ここが進化のポイント！
- 形状の最適化：細身のラストで踵が小さい人でも浮きにくい。
- 剛性の向上：サイドの補強により、強傾斜でも負けないホールド力を実現。
- 感度の良さ：厚すぎないラバーで、岩の微細な凹凸を感じ取れる。
ボルダーでの激しいコーディネーションムーブや、ルーフでの掻き込みにも安心してトライできる、信頼性の高いヒールに仕上がっていますよ。
ノーエッジの寿命とリソール情報
高価なシューズだけに、どれくらい長持ちするのかは重要な問題です。「エッジがないから、すぐに丸くなって寿命が来るんじゃない？」という心配もよく耳にしますが、実は構造工学的には逆の現象が起きます。
摩耗が分散されるメカニズム
通常のエッジありシューズは、新品時は90度の角で「点」でホールドに乗ります。そのため、その一点に負荷が集中し、そこが削れると急激にグリップ力が低下します。
対してマンダラのようなノーエッジは、最初から丸みを帯びた形状をしており、「面」で接触します。そのため、摩耗が特定の一点に集中せずにつま先全体に分散され、結果としてパフォーマンスの高い状態が長く続くというメリットがあります。
スポルティバ公式サイト【THEORY | LA SPORTIVA（スポルティバジャパン公式サイト）】の技術解説でも、ノーエッジ技術はラバーの接触面積を最大化し、均一な摩耗を促進することで製品寿命を延ばす効果があるとされています。
リソールの可否と注意点
もちろん、ソールが減ってきたらリソールも可能です。ただし、ノーエッジのリソールは通常のフラットなソールを貼るのとは異なり、特殊な成形技術と専用の部材が必要になります。
近所の靴修理屋さんではなく、必ずスポルティバ公認の技術認定を受けた専門ショップに依頼するようにしましょう。適切にメンテナンスすれば、アッパーがしっかりしている分、長く付き合える「一生モノ」の相棒になってくれるはずです。
スポルティバのマンダラをレビュー：比較で深掘りする
マンダラの単体性能が分かったところで、次は「じゃあ他のシューズと比べてどうなの？」という疑問にお答えします。同じスポルティバ内のライバル機や、他メーカーの人気モデルと比較することで、マンダラの市場での立ち位置がより明確に見えてきます。
✅ジーニアスやフューチュラとの比較
✅スカルパのドラゴとの違いを検証
✅外岩でのエッジング性能と評判
✅まとめ：スポルティバのマンダラをレビュー
ジーニアスやフューチュラとの比較
↓↓画像はジーニアス
「ノーエッジ」という革新的なコンセプトを共有するこの3足ですが、いざ購入するとなると「結局、自分にはどれが合っているの？」と迷ってしまうのが正直なところですよね。これらは単なるグレード違いではなく、明確に異なるキャラクターを持っています。
選び分けの最大のポイントは、ズバリ「剛性感（サポート力）」と「フィットの調整力」の2点にあります。それぞれの立ち位置を整理したので、まずは以下の比較表を参考にしてください。
| モデル名 | 特徴と推奨シーン | 剛性感 |
|---|---|---|
| マンダラ | 【現代的オールラウンダー】 剛性と感度のバランスが良く、ヒールの収まりも向上。着脱が楽な一本ベルクロで、ジムのボルダリングから外岩のリードまで幅広く対応。 | 中～高 |
| ジーニアス | 【フィット感の王様】 レースアップ（紐）により、足の幅や甲の高さに合わせてミリ単位の調整が可能。長時間履くルートクライミングや、包み込まれる感覚を重視する人に。 | 中 |
| フューチュラ | 【繊細さと軽さ】 非常に薄く柔らかい設計。足裏感覚は最強クラスだが、足指の力がダイレクトに試される。強傾斜やインドアでのコーディネーション系に強い。 | 低 |
↑↑画像はフューチュラ
ジーニアスとの決定的な違い：調整力か、瞬発力か
ハイエンドモデルである「ジーニアス」との比較で悩む方が最も多いと思います。決定的な違いは、クロージャーシステムが生み出す構造特性にあります。
ジーニアスはレースアップ（紐靴）であるため、例えば「今日は浮腫んでいるから少し緩めよう」とか「本気トライだから爪先だけキツく締めよう」といった微調整が可能です。また、アッパー全体で均一に足を包み込むため、特定の箇所が痛くなりにくいというメリットがあります。
対してマンダラは、太いシングルベルクロと広範囲を覆うトゥラバーにより、足の甲から土踏まずにかけてを「面」でガチッと固定します。これにより、ジーニアスよりも「剛性が高く、力が逃げない」感覚が強まっています。
着脱のスピードも圧倒的に早いため、頻繁に脱ぎ履きするボルダリングシーンではマンダラに軍配が上がります。
フューチュラとの違い：進化したサポート性能
一方、軽量モデルである「フューチュラ」と比較すると、マンダラは明らかに「しっかりした靴」になっています。
フューチュラは非常に柔らかく、足の動きを一切妨げない自由さが魅力ですが、その分、垂壁やスラブでの立ち込みでは自分の指の力だけで体重を支える必要があり、長時間のクライミングでは足が疲れやすいという側面がありました。
マンダラは、フューチュラの繊細な感覚を残しつつ、ミッドソールとP3システムの恩恵で「靴が体重を支えてくれる」感覚がプラスされています。「フューチュラの感覚は好きだけど、もう少しエッジングの安定感が欲しい」と感じていた方にとって、マンダラはまさに理想的な進化形と言えるでしょう。
選び方の結論
- マンダラ：ボルダーもリードも1足でこなしたい、脱ぎ履きの手軽さとヒール性能を重視する人。
- ジーニアス：フィット感の微調整にこだわりたい、足幅が広い、または紐靴の包み込む感覚が好きな人。
- フューチュラ：とにかく足裏感覚と軽さを最優先し、自分の足指でホールドを掴む感覚を極めたい人。
スカルパのドラゴとの違いを検証
現代のクライミングシーン、特にインドアボルダリングにおいて圧倒的なシェアを誇るスカルパの「ドラゴ」。柔らかいハイエンドシューズの代名詞とも言えるこのモデルからの乗り換えを検討している方も多いはずです。メーカーは違いますが、同じ「ソフトシューズ」というカテゴリーに属する両者。しかし、その性格は似て非なるものです。
「柔らかさ」の性質が全く異なる
両者とも柔らかい部類のシューズですが、その「質」には明確な違いがあります。
ドラゴ（特にドラゴLV）は、履き始めから非常に柔軟で、足の動きに対して一切の抵抗なく追従する「靴下」のような感覚です。足指の力がダイレクトにホールドに伝わる反面、シューズ自体の反発力は少なく、強傾斜で足を残すには相応のフィジカル（体幹と足指の力）が要求されます。
対してマンダラは、柔らかさの中にも芯のある「コシ」を感じます。これはP3システムによる形状維持能力と、ミッドソールのサポートが効いているためです。
ドラゴが足の動きに100%従順なシューズだとすれば、マンダラは「足の動きをサポートしつつ、バネのような反発力を利用して掻き込む」動作を助けてくれるイメージです。ドラゴだと長時間登ると足が疲れてしまうという方には、マンダラの適度な剛性が大きな助けになるでしょう。
エッジの有無が生む感覚の差
当たり前のことですが、「エッジがあるか無いか」は決定的な違いを生みます。
ドラゴは柔らかいながらも鋭利なエッジを持っており、極小のジブ（粒）に対して「爪先を引っ掛ける」ように乗ることができます。一方、ノーエッジのマンダラは、そうした粒に対しても「指の腹で包み込む」ように乗る必要があります。
このため、インドアのボテ（ハリボテ）やボリュームホールドに対するスメアリング性能では、接地面を稼ぎやすいマンダラが圧倒的に有利です。逆に、外岩のカミソリのような極小エッジに関しては、ドラゴの方が（エッジが残っているうちは）繊細なコントロールがしやすいと感じる場面があるかもしれません。
失敗しないサイズ変換の黄金比
最も注意すべきなのがサイズ選びです。スカルパとスポルティバではサイズ表記の基準が微妙に異なりますし、何より「伸び方」が違います。
ドラゴは使用に伴ってかなり大きく伸びる傾向がありますが、マンダラはマイクロファイバーのアッパー剛性が高く、そこまで劇的には伸びません。もしドラゴからマンダラに移行する場合の黄金比は以下の通りです。
- 基本ルール：ドラゴと同じEUサイズを選ぶ（例：ドラゴ EU39 → マンダラ EU39）
- 攻める場合：ハーフサイズ（0.5）だけ下げる（例：ドラゴ EU39 → マンダラ EU38.5）
これ以上サイズを下げると、ノーエッジのメリットである「指の自由度」が失われ、単に痛いだけの靴になってしまうリスクが高いです。
注意点：攻めすぎは禁物！
ノーエッジシューズの性能を最大限に引き出すコツは、足指が完全に拘束されず、靴の中でわずかに「グーパー」できる程度の余裕（遊び）を残すことです。ドラゴのような感覚でギリギリまでサイズを攻めるのはおすすめしません。
外岩でのエッジング性能と評判
「丸い爪先で、本当に外岩の細かいホールドに乗れるの？」これが、ノーエッジ導入を躊躇する最大の懸念点かと思います。結論から言うと、乗れます。ただし、従来のシューズとは「乗り方」の意識を変える必要があります。
「点」ではなく「面」で捉える技術
マンダラは、エッジを点で捉えて立ち込むのではなく、岩の微細な凹凸にラバーをむにゅっと押し付けて「包み込む」ように変形させ、接触面積を増やして摩擦を生みます。これが慣れると、不思議なほどの安定感を生むんです。
特に、石灰岩のポケットや、花崗岩のツルッとしたスラブ面、チャートののっぺりしたフットホールドでは最強クラスの武器になります。
苦手なシチュエーション
一方で、正直に申し上げると、カミソリのような極小のエッジ（マイクロエッジ）に関しては、やはりミウラやカタナのような、高剛性かつ鋭利なエッジを持つシューズに分があります。
四角いエッジに対して丸いゴムを押し付けると、どうしても力が逃げる感覚（ぬめっとする感覚）があるのは否めません。ですが、それ以外の9割のシチュエーションでは、マンダラは驚くほど快適で高性能なパフォーマンスを発揮してくれるはずです。
まとめ：スポルティバのマンダラをレビュー
ここまで、サイズ感から実戦での挙動まで詳しく見てきましたが、マンダラは単なる「新しいノーエッジ」ではなく、シリーズの弱点であった「剛性不足」や「ヒールの甘さ」を克服した、非常に完成度の高い一足だと言えます。
- 足裏感覚は欲しいけれど、ある程度のサポート力も欲しい人
- ジムでのトレーニングと週末の外岩を1足でこなしたい人
- これまでのノーエッジでヒールに不満があった人
- ドラゴなどのソフトシューズから、もう少し剛性のあるモデルに移行したい人
こういった方には、間違いなくおすすめできるシューズです。最初は独特の丸い爪先に戸惑うかもしれませんが、3回も登れば慣れてきます。そして一度その感覚を掴むと、「足指で岩を掴む」という新しい登りの楽しさに病みつきになるはずですよ。ぜひ、あなたの足でこの「マンダラ（宇宙）」を体感してみてください。
※本記事のサイズ感や使用感は個人の感想を含みます。足型には個人差があるため、購入前には可能な限り試着をおすすめします。
